小さめ美術館の森

増田智己 個展 | サヨウナラ、こんにちは。

展示作品

「その声はほんとう?」

ACTアート大賞展2017で最優秀賞となった作品です。

「その想いも引き連れて、新しい場所へ。」

 

「ちゃんとここで見てるから。」

 

 

「そのまま、進むだけでいいの。」

 

「キミの心の声を聞いて。」

 

左「まもりネコ No,9」 右「まもりネコ No,8」

 

左「まもりクマ(大)No,2」 右「まもりクマ No,20」

 

解説・鑑賞後記

2017年10月に開催された、増田智己(マスダトモミ)氏の個展です。同年1月に開催された、ACTアート大賞展(毎年1月にアートコンプレックスセンター全部屋で開催される、平面作品の アートアワード)で最優秀賞を受賞し、その特典として開催された企画個展です。

氏は2008年から作家として活動をはじめ、アートイベントやグループ展などに多数出展を行っています。今回の個展は3度め、8年ぶりになります。氏は元々ふんわりとした綿菓子のような、淡い背景の中に動物など具象を描いていました。

しかし徐々に作風が抽象に変化していき、ここ1年ほどの作品には動物たちが目に映る姿としては描かれなくなりました。今回の作品は多くが本展に向けて、2017年に制作されたものです。タイトルの「こんにちは」とは、作風や気持ちが変化した新たな自分を迎えるという意味があります。

別れから始まったという氏の制作活動。「サヨウナラ」という言葉は悲しみを想起させますが、気づきや新たな出会いの始まりに繋がっていくことでもあります。悲しみは無理に乗り越えたり忘れたり、「サヨウナラ」しないといけないものではなく、それを抱えたまま一緒に進んでいけばいい。そんな悲しみがあってもいい。

作風が変わってもテーマは今までとは変わらず、次へ進むためのステップとしての「サヨウナラ」。悲しみは乗り越えるものだと決めつけていた自分に「サヨウナラ」することで、新たな自分に「こんにちは」ができる。そのような想いが込められています。

新たな作品には具体的な動物の姿は描かれてはいませんが、彼らとの距離が変化したというだけで消えてしまった訳ではありません。遠く離れたところから見ている画面を描いているため、小さすぎて目視することはできませんが、その中には彼らが確かに存在しているのです。

夢に足を踏み入れるような、ぼんやりとした不可思議な色合い。レースや三つ編み、刺繍などが流れるように自然に描かれている様子は、超自然的な世界を覗いているようでもあります。氏が別れをきっかけに感じたという、人同士がどこかで繋がっているという感覚。現実を超えるような、日常とは異なる世界が表現されているのです。

メディウムを用いた絵の具の様々な質感・模様、キャンバスに縫い付けられた糸・ビーズ・レース。一枚の作品の中にこれほどまでに多様な素材があるにも関わらず、違和感やアンバランスな感覚はまったくなく、手を伸ばせば沈み込んでしまうような奥行きを感じます。

桃色が好きだという氏は、彩色をほとんど感覚的に行っていると話します。温かい視線を向けられるような安心感。柔らかな感触で体を包み、孤独を癒やしてくれるようなこの上ない感覚。これは氏が感じたという超現実的な繋がりの世界が、極めて感覚的に描かれているからなのかもしれません。

氏はクマやネコなどのぬいぐるみ作品も並行して制作しています。これらは絵画から飛び出して来たイメージで造形されており、持ち主のお守りのような存在であってほしいという想いから、「まもりクマ」「まもりネコ」と名付けられています。

特徴的な装飾、遠くを見つめるような愛らしい表情は、絵画がそのまま立体になったよう。名前の通り持つ人を静かに見守り、穏やかな感情をもたらしてくれるような、温もりが込められていると感じました。

生きることは死ぬこと。出会うことは別れること。生という現象の根幹にある現実を、悲しみとは別の視点で提示してくれるような、勇気と温かさをもらえる展示でした。

展示情報

展示名:サヨウナラ、こんにちは。
作家:増田智己(マスダトモミ)| ウェブサイトツイッターフェイスブック
期間:2017年10月24日(火)~10月29日(日)

展示場所:アートコンプレックスセンター(新宿)
最寄り駅:信濃町

所在地:東京都新宿区大京町12−9

error: