小さめ美術館の森|東京 現代アート最新情報

kafkanako 個展 | 3cmの空虚論

展示作品

「彷徨う獣」

「迷子の言葉が繋がれた管の中で循環して、私の血液に馴染んでいった。」

ひび割れた人形は100年以上前のものであり、頭蓋から溢れ出る小さな人形は最近の製品です。

解説・鑑賞後記

2017年10月に開催された、美術作家・kafkanako(カフカな子)氏の個展です。氏は東京デザイナー学院・アート科を卒業した後、2011年からロンドン・ニューヨーク・東京などで多数展示活動を行います。しかしその後体調を崩し、しばらくの間制作から距離を置きます。2017年1月に脳手術を行い、春から制作活動を再開。

今回の展示は5年ぶりとなり、新たなスタートとなります。会場にはインスタレーション作品「彷徨う獣」がメインに置かれ、ドローイング・ブローチ・切手を使用したアクセサリー・ポストカード・ZINEなど、様々な作品が出展されました。

展示名「3cmの空虚論」とは、脳手術の際に頭蓋骨に穴を開け、そこから様々なものが漏れ出る様子を表しています。作品制作の転機となった手術、以前から抱え続けている病気に焦点を当て、傷や自らの中に「存在するもの」をテーマとした作品が展示されます。

水を打ったような沈黙を感じさせる会場。そこはホワイトキューブの空間にも関わらず、一歩足を踏み入れ作品に囲まれると、まるで森林の奥深く、異界に迷い込んでしまったかのような不可思議な感覚を得ます。

頭蓋骨・人形・毛皮・マネキン・ドローイングなど多岐にわたる展示物は、作家自らが作りたいものに対して今の自分が向き合って生まれた作品であり、氏の脳内を駆け巡る様々な想像が実態となって溢れ出てきたかのようです。

静謐に包まれるような空間には、形容し難い緊張感が張り詰めており、僅かな刺激で音を立てて崩れてしまうような危うさ、漠然とした不安を覚えました。

「彷徨う獣」は、記憶を失っている間の作家自身であり、幼い過去を映し出しています。病に苛まれ、手術を経た氏の中にいつしか生まれたという獣。「ときに優しく、ときに凶暴な獣」と言われる通り、あらゆる感情を抱えながら不安定に彷徨うような姿は、じっと見つめることさえ躊躇われるようです。

「迷子の言葉が繋がれた管の中で循環して、私の血液に馴染んでいった。」は、脳手術を受けた際の自らを表現しています。鉗子と管を入れられ、開かれた脳内から溢れ出る小さな人形たち。彼らも氏の中に潜む獣です。

傷だらけの人形が見せる空洞のような目。自ら鉗子に手をかける様子は例えようもなく恐ろしく、手を差し伸べることさえ阻むようです。しかしそこには、脳を切り開くという恐怖――自我・意識さえも入れ替えられてしまうのではないか。という想いが込められているようにも感じました。

壁を覆う数多くのドローイング作品は、髪の毛・傷・獣などがモチーフになっています。漫画・イラスト寄りの絵もあり、そういった様々なテイストが混合して作品が生み出されます。下記は切手を使用したアクセサリーです。樹脂で固められた艶のある表面、古風な絵柄が魅力的です。

引用:作家ツイッターより

 

氏は今後、デザインフェスタ・コミティアなどの即売会イベントへの出展を予定しており、来年も新宿眼科画廊を含め、多数の展示が決定しています。開催情報については、作家ツイッターをご確認ください。

様々な感情を内包した沈黙が降るような展示空間。そこはある種洗練さを極めるようで、まるで空気や時間さえ停止しているかのような、かつて体験したことのない感覚をもたらされました。

作家の精神世界を突きつけ、琴線を揺するように美しく、メッセージ性に富んだ作品たち。作品間の空白や床・天井、室内の空気感まで、作品の一部のように染め上げてしまう途方もない感性。

見てはいけないものを目にするような罪悪感を覚えながらも、いつまでもその世界に浸っていたくなるような、そんな魅力に溢れた素晴らしい展示でした。

展示情報

展示名:3cmの空虚論
作家:kafkanako | ウェブサイトツイッターインスタグラム
期間:2017年10月20日(金)~10月25日(水)

展示場所:新宿眼科画廊(新宿区)
最寄り駅:東新宿

所在地:東京都新宿区新宿5-18-11

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